うにゃんにゃ反抗期? (お侍 拍手お礼の五十一)

        〜寵猫抄より
 

例えば 例えば。(またかい)

夜中のうちに急な雨こんこがあったせいか、
朝起きたら、お陽様の下、お庭の芝生がきらきらしてて。
起きぬけの“のびのび”やら欠伸やらもそこそこに、
リビングの大きな掃き出し窓へと寄ってくと、
ガラス越しにそれをじ〜〜〜っと眺めてた仔猫さんへ。
ありゃりゃあと困ったように眉を下げたのが、
朝ご飯だよと呼びに来た七郎次お兄さん。

 「久蔵、ご飯にしよう。」
 「にぁん。」

小さな肩の上、やわらかそうな綿毛を揺らして、
愛らしいお顔が素直に振り返って来たものの。
曇りも濁りもまるでないままな、光を集めた宝珠のような、
紅の双眸キラキラさせて、

 「みゃんvv」

小さなお手々でぺちぺちと、ガラスをしきりに叩き始めたので、

 「ダメダメ。
  あんな中を駆け回ったら たちまち、
  足元からどこからと、びしょ濡れになっちゃうよ?」

目許を眇めて ダメと言い、小さな体の両脇に手を延べると、
窓から引きはがすように一気に抱き上げる。
途端に、うみゃ〜〜っと駄々をこね、
四肢を振り回しての、じたばたしだす久蔵だが、
そこは妙齢のか弱い新人ママさんとは違うところ。

 「はいはい、取っ組み合いなら後で受けて立つからねぇ。」

ふっふっふ…っなんて にんまり微笑う余裕つき。
びくともせぬまま、ダイニングまでのお運びと相成り、

 「ほぉら、今朝のご飯はメヒカリの煮付けだよ?」

甘辛の煮魚をほぐしたの、
炊き立てご飯に和えてのおさじで掬い、
ほれあ〜んと差し出せば、

 「〜〜〜〜〜。」

そんなので誤魔化されないもんねと、
サジごと突っぱねる…よな年頃にはまだ至らぬか。

 「にぁん♪」

お米粒のような小さな歯の並んだのが覗くくらいに、
小さなお口をぱかりと開けて、
ふうふうしてもらった丁度いいのをあぐりと頂く。
お魚の香ばしさも十分に居残りの、
何と言っても煮え具合が絶妙で。
ふかふかのやわやわな身の舌触りが、
ご飯のほくほくした甘さに絡まり合って…、

 「♪♪♪」

小さなお手々で塞いだせいで、その口許が見えずとも。
愛らしい目許が嬉しいの嬉しいのとたわむのが、
いかにも幸せそうだから。

 「美味しい? そう、良かったぁvv」

この笑顔のために、お兄さんまだまだ頑張るからねと、
そちら様もまた、絶世の笑顔になってしまい。
その笑顔がまた、テーブルを挟んだ向かい側においでの、
徹夜明けの御主人の、明日への活力になっている好循環よvv
ただし、

 「…七郎次。」
 「あ、はい。お代わりですか?」

延ばした手を掴み取られての、
不意を突かれたまんま、
その指先をちうと吸われることもあったりし。

 「か、かんべえさまっ。////////」
 「なに、煮付けのつゆが垂れとったのでな。」

そんなの自分で舐め…じゃない、拭きますよぉと。
妙な方向へ脱線するのもまた、いつもの事だそうだけれど。
(笑)



    ◇◇◇



そうかと思や、朝露も乾いた昼下がりのこと。

 「…あれ? 久蔵?」

郵便屋さんでも来たものか、玄関の方から人の気配がしたのでと。
お庭で遊んでいたのを中座して、
は〜いと七郎次お兄さんが向かったわずかな間合い。
シャ○ハタは常に常備という備えのいいお兄さんなので、
速達や宅配便であれ、そりゃあ手際良く受け取ってしまい、
そのまま真っ直ぐ戻ってくるのに。

 「…にゃにゃvv」

ちょこっと背伸びをしてから、あのね?
こっそりこそこそ、小さなかかとで芝をすりすり擦りつつ。
何とも危なっかしい後ずさりで、
お庭の中をバックオーライしちゃうおチビさんだったりし。
リビングの大窓の前にいたはずが、あれれぇ?姿が見えない坊や。
お届けものを濡れ縁がわりのリビングの端へと置き、

 「久蔵? どこ行った?」

帰って来たよと声を掛けても、聞こえていように姿が見えぬ。

 「む〜〜〜ん。」

このところの時々、
こういう隠れんぼもどきを いきなり仕掛けることのある久蔵で。
何たって小さな坊やだからね、
しかもこのごろでは、
お庭のすみずみ、お兄さんに負けないほど把握して来てもいる。
茂みにもぐって隠れての、七郎次が探しにくるのをやり過ごし、
入れ違うよに先にリビング前へ戻ってて。
『どうしたのぉ?』なぁんて澄まし顔にて、
沓脱ぎ石のところに、ちょこりと座ってたりもする。
それもまた、坊やには遊びであるのだろけど、

 “しまったな、サツキの剪定が中途だった。”

小さな小さな茂みだが、
自分に見えているよりも もっと小さな仔猫の久蔵ならば、
隠れられないことはない。
けれど、だから、
刈り込んだばかりの尖った枝の先が、
お顔や目許へ刺さったりしたらどうしようと。
……いやあの、
猫ならお髭で危険は回避するのですがというところまでを、
どしよどしよと案じてしまったお兄さん。

 「よ〜し。」

そこでと、きれいな白い手を胸元へぐっと握り締め、
カーディガンの代わりのように、オーバーシャツとして羽織ってた、
デニムのカントリーシャツの胸ポケットから取り出したのが、

 「久蔵〜、バームクーヘン食べないか〜?」
 「…七郎次。」

お主、隠れんぼうの最中にそれはずるいのではないか?と、
たまたま通りすがったらしい勘兵衛が、
よ〜しからこっちを見ていてそんな見解を出したものの。

 「にぁんvv」
 「お、釣れましたvv」
 「…おいおい。」

勘兵衛からのお声かけの間、腕を下げていたその先へ、
隠れていた水仙の茂みから飛び出してくると、
がぶちょとばかり、
パン食い競走よろしく口から飛びついての、
見事にかぶりついてた仔猫さんであり。

  だからだな、
  それは教育上、よろしくないのではないかと。

  ですが勘兵衛様、
  そもそも隠れんぼうなぞしてはおりませんてば。

大人二人が論を交わし合う間も、
ひょいと抱き上げられた七郎次お兄さんの腕の中にて。
砂糖のコーティングがサクサクしてて、
中はしっとりふわふわの、ユー○イムのバームクーヘンを、
思う存分、あぐあぐと、堪能する仔猫さんだったりするのであった。





   ◇ ◇ ◇



 「ですが、これって反抗期なんでしょうか?」
 「なに、もっとお主に追いかけてほしいだけのことよ。」

喉が渇いたとのおねだりをし、ミルクも頂いた末のこと。
お腹いっぱいだ〜と、ご機嫌になったそのまま、
お昼寝へ突入しちゃった小さな坊やを見守りながら、
このところの呼んでも駆けて来てくれない久蔵なこと、
勘兵衛様へと相談すれば。
案外あっさりと、お答え出してくださった、物書きせんせえだったりし。

 「こっちからの“好き”ばかりでは不満で、
  そっちからはどのくらい好きかと確かめたいのだ。」

  我儘をしてもいい? 追っかけて来てくれる?

 「あらまあ。////////」

それはまた…じゃあ試されてんでしょうか、私。
かわいらしい坊やの髪を飽かず撫でてやりつつ、
そんなことを訊いてくる女房へ。

 「いやまあ、そこはお主の裁量の話だから。」

儂がとやかく言うのは…なんて。
ここに来て言を濁すご亭主だったりし。

 「勘兵衛様、ずるうございます。」
 「何を、言うか。」

あわわとたじろいだのは、話題のせいじゃなく。
仔猫さんへととろけるような眼差し向けてた、
七郎次の真白にやさしい横顔へ、
うっとり見とれていたところへと、
唐突にこちらを振り仰いだ女房殿だったから。

 「…勘兵衛様?」

あああしまった、緩んでたお顔を見られたかなと、
あわててそっぽを向いた勘兵衛へ。
おやや? 服になにかついてでもいたのかなと、
自分をあちこち見回す古女房だったりし。

 「…あ、これか。」

もう片方の胸ポケットをごそごそまさぐれば、
そっちからは……マドレーヌが出て来たりして。
自分は甘いものが鬼門なご亭主が一言零したのが、

 「…七郎次。」
 「はい?」
 「久蔵はともかく、お主も太らんな。」
 「あれれ?/////////」





  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.05.26.


  *メルフォでお言葉いただくKさんから、
   最近のシチさんて 甘いものばっか食べてませんか?
   …とのご指摘が。
   いやえと、あれ? そういやそうですね。
   特にこの“寵猫抄”では、1作に一個は何か食べてないか?
   でもでも、きっと運動量が多いので、
   消費され切っているのでしょうよ、うん。何とは言わんが…。
(苦笑)


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ケーキも好き好きvv

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